筆者 ゲイル・カーソン・レヴィン
訳者 三辺律子
出版 サンマーク出版
読了月 2016/03
原題 Ella Enchnted
備考 1998年 ニューベリー名誉賞受賞作品
ORGANIZED by やまねこ翻訳クラブ
あらすじ 誕生の贈り物で妖精・ルシンダから「従順」を授けられたエラ。命令されれば誰の言うことも聞いてしまう、はた迷惑な呪いだった。母の死をきっかけに、淑女のお行儀を習うフィニシング・スクールに行かされてしまう。これまでも「従順」の呪いにも屈しなかった頑固なエラは、命令ばかりの先生や同級生にもううんざり! スクールを脱走し、ルシンダの贈り物に打ち勝とうと奮闘する。 |
設定・物語
この物語中には、妖精・エルフ・オルグなど、ファンタジーにはおなじみの面々が登場しますが、その特徴が一風変わっています。そしてそれが真新しいスパイスとなって、さらに物語を楽しませてくれます。
(例えば、エルフは樹の肌を持つ芸術家 オルグは人を操る魔法の言葉を持つ など)
この物語のキーは何といっても、妖精ルシンダに授けられたエラの「従順」の呪い。
この呪いのせいで、エラはどんな命令にも「NO」と言えずに従わなければいけません。
ユーモアのわかる母や、口うるさいけれど思いやりのあるマンディとお屋敷に暮らしていた時は、つつがなく暮らしてこれましたが、母の死後、何も知らない父親にフィニシング・スクールにやられることになって、さぁ大変。
その道中意地汚いハティに呪いのことを感づかれてしまい、都合よく使われてしまいます。
あれをやれ・これをやるなと我儘な命令ばかりをするハティに、友人と縁を切れと命令されたエラは、それを実行しないためにスクールから脱走します。
ことの発端となった、妖精ルシンダを探し出して、この呪いを解いてもらおうと冒険が始まります。
大人がいい子に求める要素の一つ、「従順であること」。
これって本当にいいことなんだろうか?と疑問が湧くような作品です。
人の命令は身勝手なもので、ついさっきまで「して」だったものが、言う人やその気分や"空気"というもので「しないで」に変わってしまうこともしばしば。
何も考えずに人の「して」「しないで」に左右されていたら、意思決定の能力がどんどん退化して、上へ下へ右へ左への操り人形になってしまうことだってなきにしもあらずです。
大切なのは、命令に従うことではなく、命令されたことを考えて真意を探ることではないでしょうか。
悪意に満ちた自分勝手な命令があるように、心配からついでてしまう命令だってあります。
例えば作中でも、エラの母親が心配から下した命令「呪いのことを人に話さないこと」は、時にエラの理解者を奪うような結果になってしまいます。
思いやった結果の命令(例えば親が子を思ってのしつけ)も、それがどのどんな場面でも100%正しいことなんてないんだろうと思います。
命令がどんな真意を持って下されて、どんな時に省みるべきか決めるのは、常に自分自身。
そんなことを、他人の命令に屈しず、自分の意思を見失わないようにしていたエラから学んだ気がします。
また終盤になると徐々に強くなる既視感でわかるのですが、童話『シンデレラ』がベースとなっているんですね。
作者さんのシンデレラの解釈が、刺激的で目から鱗でした。
これについては訳者・三辺律子さんが、作者・ゲイル・カーソン・レヴィンの言を引用アンド翻訳してくれているのでそのまま引用したいと思います。
訳者あとがきより 彼女(作者)は、あまりにもシンデレラが"いい子ちゃん"なので、物語を書き進めることができなくなり、こう語っています。「呪いというアイディアを思いついたのは、その時でした。シンデレラは、いい子ちゃんにならざるをえなかったのです……」「人はみんな、従順に振るまったり、無理をしてみんなの期待に応えようとしたり、思うままに行動できなかったりする"呪い"をかけられているのです」。従順という呪いをかけられながら、明るさとユーモアを失わず、自分の意思を押し通そうとするエラは、おとぎばなしのお姫様というより"自分らしくあること"がますます難しくなっている今の時代のヒロインだと思います。 |
たしかに、継母義姉からの理不尽な要求をのみ、日々せっせと働く童話のシンデレラに、現代の私たちは同情はしても共感はしづらいかもしれません。
現代では、離れようと思えば、どうしても我慢ならないことから(家族からですら)離れるという選択肢を実行できる環境があるのです。
それに、それを「実行するかしないか」の選択権は自分達の中にあると、無意識に私たちの深層の常識とでもいうべきところに刻まれているような気がします。
シンデレラが作られた当初は、そんなリベラルな考え方は広まっていなかったでしょうから、時代の違いは大きいと思います。
それがシンデレラがエラになるとどうでしょう。
やりたくもないのにどうしても逆らえない呪いの中に癇癪を起こす。
そんな命令をする人にイライラする。
それでも一生懸命命令の抜け道を考えて反撃をする。
そんな心中があっても、エラは呪いによって「いい子」でいるしかなかった。
エラの呪いは、私たちの時代の"呪い"も反映しているのではないでしょうか?
人の期待や常識という枠、気に入られたいという自分自身の欲望によって「しなければいけない」という自分自身への命令を打ち破れず歯噛みする気持ちを、呪いと表現することができるかもしれません。
そう思うとエラをすごく身近に感じます。
さて、今回は少し真面目色が強い感想となってしまいましたが、
こちらの作品、トキメキもたくさんあります。
それらは以下のところで語っていきたいと思います。
恋愛だったりファンタジー的なところのトキメキを合わせて、普段少女小説を読んでいる方にもお勧めできる児童文学です!
キャラクター
・エラ(エレノア)
「ふたりともまだ結婚するには若すぎるものね」
「従順」の呪いをかけられながら、反抗的であり続けたエラ。
エラはすごーく面白い人で、読書中何度も笑わしてもらいました。
命令されると、その裏をかいて命令した人を困らせてやろうと知恵を絞ったり。
王子であり友人であるシャーとの会話は、冗談の応酬で、本当に楽しそう。
また、語学を覚えるのが早いというのも、彼女の特徴です。
(物語のところどころで、この能力によって窮地を脱します。)
すでにご紹介した通り、彼女から学ぶことがたくさんありました。
・シャー(シャーモント)
「きみはまだ結婚するには若すぎる?」
エラが母の葬式で初めて言葉を交わし、その後もずっと一緒にいるわけではないけれど、節目節目で縁がある王子。
童話のシンデレラのように、新しい家族に煤まみれになって働かされているエラですが、遠くに行ってしまった王子とは文通で交流が続きます。
ある時には、ボタン引きちぎって階段の手すりを滑り降りるような少年らしい面を見せ
またある時は、若いのに自分の欠点を冷静に見つめ、将来よい為政者になるだろうと予感を感じさせてくれます。
・マンディ
「想像力を使ってごらんなさい」
台所の妖精であり、エラの母の友人であり、エラの名付け親であり、
一番近いところでエラの呪いに心を砕いた人です。
かわいそうだと思っているのですが、妖精が魔法をかけるとどこでどう影響が出るかわからないため、"大きな魔法"での協力はしません。
そう口でいっていても、エラのために魔法を使ってしまう時があるあたり、とても人らしい妖精なのでしょう。
恋愛
文通の手紙で、エラはシャーに告白されますが、命令を全て実行してしまう自分が王妃になることの危険性を考えてあえて酷くふってしまいます。
その時のエラの悔しさがかわいそうで……。
その後、どうしても一目見たいという気持ちをで、帰国した王子の舞踏会に足を運んでしまうのもいじらしく。
主人公であるエラはもちろん、魔法の本でシャーの気持ちも読めてしまうので、切ない気持ちでした。
結末は。シンデレラストーリーをうまく使ったロマンチックな終わり方になっていました。
実はあの「結婚するには若すぎる」のフレーズ、大変魅力的な使われ方がされています。
その他
この本を原作に、映画化もされています。
アン・ハサウェイ主演で、とてもキュートなプリンセス映画です。
原書はこちら
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