筆者 久賀理世
挿絵 あき
レーベル コバルト文庫
読了月 2016/03
備考 「英国マザーグース物語」シリーズ第一巻



あらすじ

著名な冒険家であった父が亡くなり、アッシュフォード家の安定のため、長女セシルは一年後に結婚を控えた婚約を結んだ。乗り気でない婚約の代わりに、家長となった兄と結んだ条件は、「婚約者のことをセシルとの間で話題にしないこと・婚約者と会わないこと」。そして「結婚までの一年間、憧れの職業の新聞記者として働くこと」?! かくして子爵令嬢であるセシル・アッシュフォードは、少年新聞記者セシル・アンダーソンとして働くことになる。突然現れたちょっと不思議な青年、ジュリアン・ブラッドリーをパートナーとして、19世紀のロンドンを駆ける。「お嬢さまは血痕がお好き?」「おつきあいはお友だちから?」「輝く絆は永遠に」の三篇収録。





※以降ネタバレが入る可能性があります※


設定・物語

読書メーターでの評判がよかったので、とっても期待していたシリーズ「英国マザーグース物語」をやっと手に取れました!
評判にたがわず、とっても楽しく読了しました。


19世紀ロンドンをバックグラウンドに、アクロイド社の新聞記者セシルとジュリアンが、ネタという名の事件を解決していく物語なのですが、タイトルのとおりそれぞれの事件にマザー・グースが関わっているのです。
マザー・グースというのは、イギリスで歌い継がれてきた童謡の総称です。
なんだかかわいらしい着想!
と大喜びしていたら、これがなかなか考えられたお話で、特に3つ目の事件は長期戦になりそうな布石もあり大変楽しみです。

一巻では二人は三つの事件に挑みます。
病院裏の鉄柵に残された血痕 
想い人と縁談がまとまってしまった途端鬱いでしまった女性
そして最後が
セシル父、ヘンリー・アシュフォード卿の死の真実


全ての事件は、セシルのマザーグースの歌がヒントとなり、観察眼の優れたジュリアンが解決という流れで統一されています。
実は、ジュリアンはセシルの婚約者です。
男装し新聞記者になった婚約者に興味を持ったジュリアンが、新聞社を訪れ、その絵のうまさから"たまたま"パートナーになったのです。
ジュリアン、ダニエル、そして読者はこの流れを知っていて、それを知らないセシルのちょっとずれた勘違いにニヤニヤしてしまいます。


事件としては、やはり最後のお話が一番面白かったです!!
憧れの職業を体験したいと言って、兄を騙してまで新聞記者になった本当の理由は他にありました。
探検家であった父ヘンリーの遺品に疑問を持ち、そこから感染病による病死という死因にも疑問を持つようになったのです。
父の死の真相を知りたいと、
自由に行動ができる新聞記者に扮することになりました。


この頃、父ヘンリーの探検隊に同行したメンバーの周りでも、マザーグースの歌になぞらえた見立てが起きていました。
曜日の歌からとったメンバーのあだ名にそって
ソロモングランディの歌に見立てた事件が起きます。
さらにヘンリーの幽霊も目撃され、メンバーは恐怖におののいた様子です。

ここからは、新聞記者の面々も参加し、賑やかな解決劇に向かっていきます。

ミステリーという作品傾向上、これより後は明かせませんので是非是非読んでみてください!
(各マザーグースの歌の詳細については、リンク先のNursery Rhymes Garage様にてご覧いただけます)


キャラクター

セシル・アシュフォード(アンダーソン)
「勝ち目のない戦いはしない主義なの」
夢のため、そして信念のために男装してまで新聞社に乗り込むパワフルなお嬢さん。
それに、新聞記者の仕事を心から楽しみにしている様子とかも素敵です。
自分の感情は素直に伝える素直さがあって、でも目的のためなら少々の裏切りも躊躇わない計算高いところが個人的にツボでした〜。
その計算高さは、主に長兄・ダニエルに対して使われてるので、家族間の甘えという意味合いもありそうです。
結構妄想激しく、ジュリアンの真相解明の前に語られるセシルの見解には、笑わせてもらいましたw
セシルが働いているアクロイド社は、新進気鋭の大衆紙という位置付けなのですが、伝統のある真面目な新聞でもゴシップ誌でもないところで、セシルにぴったりだと思います。

貴族界では異端の父を持ち、幼い頃の周りからの風評被害で、女性としての自信を持てない彼女ですが、ジュリアンとの出会いによってどう変わっていくのかとても楽しみです。



ジュリアン・ブラッドウッド(ブラッドリー)
「お嫁さんを探しに、かな」
初登場からセシルにアブナイ人認定されてる将来の旦那さん。
絵と観察眼や推理に優れていて、マザーグースの歌や周りからのお話でさらりと解決していていく様は見事でした。
私はミステリーのロジックを考え始めると疲れてしまうので、このくらいの塩梅がお話としては楽しめます。
貴族の次期当主としてこんなにぶらぶらしていていいのだろうかと少し不思議なのですが、執着心のもてないジュリアンの生い立ちなども少しだけ語られているので、今後ジュリアンのお話がメインの回なんかも出てくるのかなと思います。



ダニエル・アシュフォード
シスコンが災いして不憫なところもあるアシュフォード家長兄ですが、二人の関係にかなり重要なポジションをになっていきそうな気がします。
また、ダニエルとジュリアンの密談は読んでいてすごく楽しいです。



恋愛
前述の通り、セシルはジュリアンの正体を知らず、ジュリアンはセシルの正体を知った上で近づいた関係なので、今後に波乱も待っていそうな関係性です。
セシルは、騙されているともいえなくもないこの状況を知った時、どんな反応をするんでしょうか?
セシルからすれば、少年セシルのパートナーとしての青年ジュリアンなので、現在恋愛というより人間としての関係を深める状態なのかなと思います。
仕事のできる、頼りになるパートナーに相対している気安い雰囲気で、ジュリアンの懸念している通りきっと令嬢・令息として出会っていたならばこうは行かなかったんだろうなと思います。


その他
語り口がコミカルで、最初の説明的な文章も楽しく読めました!!